2024年3月1日
2019年4月から順次施行している「働き方改革関連法」は、長時間労働や正規・非正規社員の格差を是正することで、日本全体の労働環境も改善していこうとするものです。
その中で「36協定」についても、長時間労働の是正策のひとつとして改正が重ねられています。
健全な経営を継続していくためには、「36協定」の知識は欠かせないものでしょう。ここでは36協定の詳細から罰則まで、わかりやすく解説していきます。
労働基準法で定める労働時間(法定労働時間)を超える時間外労働・休日労働をさせる場合、労働組合や労働者の代表と協定を締結して労働基準監督署に届ける義務があります。これは労働基準法第36条に定められていることから、一般的に36協定(正式名称:時間外・休日労働に関する協定届)と言われています。36協定を締結していないと、法定労働時間を超えた残業や休日労働はさせられません。
また36協定は、対象労働者が1人だけでも締結・届出は必須です。就業規則の届出義務(従業員数10人以上)と混同しがちなので注意しましょう。
36協定では、時間外労働時間の上限を原則として次のように定めています。
いずれかを満たせば問題ないわけではなく、1か月・1年のどちらとも上限を超えないよう気をつける必要があります。
36協定の締結は、労働組合または労働者の代表と使用者間で行います。また、締結できる労働組合と労働者の代表には条件があり、それを満たさないと締結できません。
締結できる労働組合の条件
労働組合の条件としているのは、「事業場に使用されているすべての労働者の過半数で組織する組合であること」です。この条件にある「すべての労働者」には、正社員・契約社員・パート・アルバイトなどが含まれます。
締結できる労働者代表の条件
労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者と36協定を締結します。代表者は、パートやアルバイトなど「事業場すべての労働者」の過半数代表であること、投票や挙手などの公平な手段によって選出されたものであることが条件です。なお、経営者と一体的な立場である「管理監督者」を代表にすることはできません。
36協定が適用除外となるケースもあります。まず、前出の「管理監督者」は36協定の対象にはなりません。但し、この「管理監督者」の判断は単に役職によるものではなく、人事権があるなど経営者と一体的な立場にあるものに限られます。また、派遣社員や業務委託などは雇用関係にはないため対象となりません。しかし、派遣社員については、直接の雇用関係にある派遣元においては36協定が適用となります。
また、研究開発職も36協定の適用除外となります。但し、研究開発職については、週40時間を超える時間外労働が100時間を超えた場合、会社には医師の面接指導を受けさせる義務が生じます。
さらに、次に挙げる方々も36協定の除外対象者です。
18歳未満の方にはそもそも時間外労働をさせてはいけないことになっており、育児・介護をする方や妊産婦(妊娠中および産後1年未満の者)については、本人の申し出により時間外労働をさせてはいけないことになっています。
繁忙期などで36協定の上限を超えると想定される場合、例外として特別条項を結んでおけば、月45時間・年360時間を超えた労働も可能です。
しかし特別条項付き36協定を結んだからといって、上限なしで時間外労働ができるわけではありません。特別条項においても、次のような上限が設けられています。
また、月45時間の時間外労働を超えられる月は、年6回までとなっています。
36協定の締結後、36協定届を労働基準監督署に出すまでの流れは以下の通りです。
届出は、労働基準監督署の窓口への提出や郵送のほか、総務省運営の行政情報ポータルサイト「e-Gov(イーガブ)」から電子申請が可能です。
「e-Gov」の利用は、複数の事業所がある企業にとっては特に利便性が高くなったといえるでしょう。というのも、複数の事業所がある企業の場合、事業所ごとに労働者との36協定を締結するため、締結の度にそれぞれの事業所を管轄する労働基準監督署に届出する必要がありました。しかし「e-Gov」であれば、本社でまとめて届出をすることが可能です。
参考:労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について(厚生労働省)
36協定届の提出期限は法律で定められていませんが、起算日を過ぎて届けた場合、起算日から提出日までの期間については36協定が適用されません。その間に時間外労働をさせてしまうと法令違反となり、労働基準監督署の指導対象となってしまうおそれがありますので、対象期間の開始日までに届出を行うようにしましょう。
また、36協定の締結頻度に決まりはありませんが、年1回の締結が一般的です。協定内容が変わらない場合は毎年同じ内容でも問題ありませんが、36協定を形骸化しないためには、締結時に現在の内容に沿っているかを確認し、必要に応じて変更する必要があるでしょう。
2019年4月の法改正により36協定も改正が行われ、残業に関するルールなども変更となっています。
働き方改革関連法により改正された36協定の時間外労働の適用は、大企業が2019年4月から。中小企業においては2020年4月より適用となっています。
先に述べたように特別な事情がある場合は、特別条項により時間外労働の上限よりも働くことは可能です。しかし基本的には、月45時間・年360時間を超える時間外労働は認められていません。
もし違反した場合、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性もあります。その対象は、会社および労務管理を担当する責任者(工場長や部門長など)です。こういった観点からも、時間外労働の制限を守るよう、企業努力が求められています。
一方、建設業など時間外労働の適用まで猶予期間の設けられている業種もありますが、猶予期間は2024年3月31日まで。2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制が適用されます。
時間外労働や休日労働を行う際、業務の種類を細分化し、業務内容を明確にする必要があります。
これは、36協定届によって時間外労働を命じることができる業務を明確化し、労働者の過剰な長時間労働を防ぐためです。曖昧な記載は36協定届が受理されない可能性もあるので、適切な内容を記しましょう。
特別条項付き36協定においては、会社は長時間労働をさせる労働者への心身の負担に配慮する必要があり、健康および福祉を確保しなければなりません。
労働者を守るための「健康福祉確保措置」には、以下があります。
会社は、上記の項目を1つ以上講じなければなりません。また、これらの措置を行った記録は、36協定の有効期間の満了後3年間保存する義務があります。
2010年4月、月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金が50%に引き上げられましたが、この適用対象となったのは大企業のみ。中小企業については適用が猶予されていました。これは、中小企業と大企業との経営体力の差を鑑みた措置でしたが、2023年4月にこの猶予がなくなったことで、中小企業も割増賃金率の引き上げ対象となり、中小企業も大企業と同じ50%へと引き上げられています。
法改正により、36協定届の様式も変更となっています。変更前の様式を使用していたり36協定届の記載事項に漏れがあったりする場合、受理されないこともあるので注意深く確認しましょう。
36協定届の様式ダウンロードは、以下をご覧ください。
行政手続きの押印原則が見直され、署名・押印が不要となりました。ただし、36協定届が36協定書を兼ねる場合は、署名・押印が必要です。
新様式では、協定の当事者に関する以下のチェックボックスが新設されました。
チェックボックスを入れずに提出すると36協定届は受理されませんので、必ずチェックを入れましょう。
36協定の様式には、目的に応じた7種類の書類が用意されています(2024年2月現在)。ただし、2024年(令和6年)4月1日より上限規制猶予が廃止されるため、「様式第9号の4〜7」はなくなります。(2024年3月31日までに開始した期間については使用できます)
厚生労働省は2019年4月に、「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」を策定しました。ここでは、指針について解説してまいりましょう。
参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針(厚生労働省)
時間外労働・休日労働が多ければ労働者の健康が損なわれ、業務効率の悪化をまねくかもしれません。また企業にとっては、残業代の負担増も避けたいところでしょう。法定労働時間の範囲で業務を遂行できるよう指導し、時間外労働や休日労働を必要最小限に抑えられるよう、企業努力が求められます。
企業は36協定の範囲内であっても、労働者に対する安全配慮義務があります。また、長時間の労働(1週間あたり40時間・月45時間を超える労働)は過労死への関連性が強まると懸念されます。時間外労働が月100時間、または2〜6か月平均80時間を超える場合、脳・心臓疾患の発症リスクが高まる点についても留意しておく必要があるでしょう。
予測できなかった業務量の大幅な増加など、臨時的または特別な事情がないかぎり、限度時間を超えた労働は原則できません。限度時間を超える際は、業務内容・時間を明確に定める必要があります。
雇用期間が1か月未満の労働者の時間外労働についても、以下の目安時間を超えないよう努める必要があります。
限度時間が適用除外とされている事業や業務についても、限度時間を超えないように留意してください。月45時間・年360時間を超える時間外労働をさせる場合は、従業員の健康を確保した措置を取るよう努めましょう。
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